ベトナムの高級夜行列車

言葉ができない東南アジアを旅していた時です。

言葉はできないなりに少数民族の村を訪ねてみたくなりまして、現地でお世話になっていたマダムに頼って旅行会社を見つけて、7000円で4泊5日というツアー(当時でも多分格安)で、サパというベトナムの村へ行ったことがあります。

ホテルの人は英語を話してくれましたが、我々は現地の言葉がわかりませんので、旅行会社も身振り手振りで予約を入れて、ホテルに迎えに来てくれて電車もセットで現地でもガイドと一緒である、というツアーに突撃参加したのでした。その場では、汽車の切符の引換券や参加者であることを証明する身分証らしきものを受け取ったと思います。

出発当日は滞在していたアパートのロビーで、迎えを待っていました。が、時間をかなりすぎてもやってきません。やっぱり4泊5日7000円はだめなのか、でも旅行会社は近所にあり、何かあればクレームをつけられる距離なのに、そんなことあり得るのか!?わざわざ見送りに来てくれたマダムと、友達と頭を寄せ合います。

英語ができる門衛さんに何度も迎えが来ていないか尋ねますが、首を横に振られるばかり…

友人がちょこちょこロビーの入り口まで行っては、様子を見に行ってくれます。そんな彼女に興味を持ったのでしょうか、門衛さんが語りかけます。

「みてみて、門衛さんが話しかけてる!(私)」

「ちゃんと返事しているようだわ!(マダム)」

友達は非常に物知りで、今も昔も頼りになる友人ですが、彼女は当時英語が得意ではなくて、旅していて私とマダム以外の人と話しているのを見たことがありませんでした。

それで彼女がちゃんと楽しんでいるのか心配していた私とマダムで、彼女が現地の人と話している、しかも英語だ、ということで非常に盛り上がり、「なんて聞かれたの?何話したの?」と戻ってきた彼女に張り切って聞きましたら、彼女、眉を片方上げたあと、「how are you?て聞かれたからI’m fine thank youと答えた」と真顔で答えたその表情、「なんだこいつら」と聞こえてくるような顔で、うんと昔のことなのに今でも笑えます。こっちが思うより、ちゃんと満喫していたのね。

一時間くらい過ぎたころ、その門衛さんにおずおずと聞かれました。

「バイタクシーが、ツアーの迎えに来ているんだけど、もしかして…」

あー、それっぽい!まさかバイクが来るとは思ってなかったけど、それに違いない!

実はお世話になっていた方がお金持で、滞在先は高級すぎて、バイタクシーのおじさんたちは不審者として中に入れず、1時間、門の外で交渉してくれていたのでした。(うわぁ、貧しい友達で申し訳ありません…とお世話になっていた方と門衛さんと迎えの方に…。)

マダムに携帯電話を持たされて「何かあったらこれで電話して。お金の心配はいらないから!到着連絡もしてね」

当時はあんまり疑問に思っていなかったですが、マダムの親切、良く考えるとすごいです。。。

生まれて初めてバイクの後ろに乗りました。でもバイクといっても、いわゆる原動機付自転車ですね。自動車講習を除けばバイクなど乗ったことなく、身近だけど遠い乗り物でしたので、少し怖いような気持ちもありましたが、おじさんは気のいい方で、砂ぼこり舞う渋滞の車の中を、ゆっくり、私が怖くないように、上手に長距離列車の駅まで連れて行ってくれました。バイクの後ろに乗ったのは、東南アジアを旅していた時だけですが、あのおじさんの後ろに乗っていた時が一番楽しかったです。

一緒に旅した友達のほうは、若者の運転で、車が近くて怖かったよー、とのことでした。当時のベトナムは交通事故が多いだろうというのがはっきりわかる、まだまだ車優先の社会でした。

「カモン(ベトナム語でありがとう)」と手を振って、無事に列車に乗れました。

夜行列車は、クーラーもついていて、私と友達の向かい合わせで2段ベットの2段目を占拠。車両の中は欧米の方ばかりでしたね。

車内にはパンとミネラルウォーターが人数分置いてあります。

「いやこういうのは、ぼったくりらしいんだ、食べちゃダメだ」「そうだね」

ということで、二人で早々に寝ることに。自国でも乗ったことがなかった寝台車、一等車だったけど、夜中に壁を走るゴキブリで目覚めてしまったのも今はいい思い出です。

ゴキブリは壁を走っただけなのに(つまり私に触っていません)、ひゃぁ!と目覚めた自分にもびっくりですが、まぁその後は、壁に背中を付けてはいけない!と念じながらもちゃんと眠ったことも天晴れ、若かったですねぇ。

よく眠って、目が覚めた時は、まだ薄暗かったです。車両に誰かが入ってきたから目が覚めたのです。

ゴトンゴトン揺れる列車の車両の入り口には、ベトナムコーヒーを手にしたお姉さん。

ハイ、と私にコーヒーを渡そうとします。

いや、いらないし。お姉さんと私で無言の押し問答。他の人たちは静かに眠っています。

お姉さん、突然悲しそうな顔で何かを小声でしきりに言って私にコーヒー渡そうとします。「love ~ love ~」

え、何、loveが何?

うっかり受け取ったその瞬間、きりりと眉が上がり、してやったわよ!「50ドン(価格)!」払しょくされた悲しそうな顔が、「わぉ、商売人」と、かなり好感度が高かったです。これが噂の車内販売かぁ。

おとなしく支払った50ドン(1円以下です)

お金を受け取ったおねえさんはさっさと次の車両に移動していきました。

お姉さんが出て行ったその時、向かいのベットの友達がむくり。

「君、love meって言われてたなぁ」彼女、にやり。

あら、やだ、友達、起きていたのですね。

「え、あれ、’love me’って言ってたの?なんでコーヒー売るのに、love meなの?」

「良くは知らんが、コーヒーを買ったのだから、お姉さんを愛したってことじゃないのか。すごかったな、50ドンといった時の迫力」

二人でクスクス笑ったのでした。

目覚めたら、外に広がっていたのは、湿度の高そうな東南アジアの山々。雨に濡れた青々とした植物の葉っぱがとても大きくて、後は車窓を眺めて過ごしました。タロイモの葉や、日本では見たことがないほど大きな笹の葉に目が釘付けになりました。

渡された携帯の電波は通じなくなっていて、おろおろする私たちに、隣の車両の、美男美女のスペイン人カップルが一生懸命携帯を調べてくれたのも良い思い出、とはいえ「美男美女で性格もいいなんてすばらしいなぁ!(友達)」という喜びは残ったものの結局携帯は通じないままで、マダムに到着連絡できないと、引き続きおろおろする私に友達が「君はマダムを心配させると思って、そんなにおろおろするのだな、いいやつだな」と言ってくれて、すっかり心が落ち着いたのも、忘れない出来事です。

本当を言うと、私はもっと子供で、心配させると思っておろおろしたのと、怒られちゃうかも、と思っておろおろしたのと半分半分。彼女の温かい言葉は、むしろ旅の仲間である彼女の優しさを体現する言葉として、私の中に残っています。ふふふ、あれからいろいろなことがありましたが、今も大事な友達です。

そして。

高級夜行列車、車内のミネラルウォーターとパンは無料サービスの品でした!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です