雨のあとの水溜まり

昔々、もっと昔に少女だった人から聞いた話をしよう

*

昔々、水溜まりの向こうに側には、子供の国があるのだと信じていた少女がいた
少女はけれど、そこで暮らすわけにはいかなくて、
後悔と痛みを学びながら、そこに信念を積み上げ、いつしか母になった

母は子供を抱きながら語る

あの水溜まりをごらんなさい
青い空と白い雲とお庭の木々が映ってる
今日は秘密を教えましょう
あれは本当はね、水の反射ではないの
固く閉ざされた向こう側の世界が
雨の後だけこの世界とつながって、太陽の光の反射で、ちらりと覗いているのよ

あの国の海の底には、ねぇ、私たちの叶わなかった夢が白い貝になってたゆたっている
あの国の山の奥には、ねぇ、あなたが誰かのために流す涙を糧に育つ花々が咲いている
昔は迷い込む子供がいたけれど今は聞かない
でももしあの世界から迷い込んだ誰かに会ったら、味方になってあげるのよ
貴方のことが好きだから、会いに来てくれたのよ

あの国の夜空には、ねぇ、記憶が星々になって瞬いている
あの国の風雨には、ねぇ、歌になった記憶が刻まれている
そして
そうやってあなたがいつまでも待ってた姿を覚えている
あの子と会う日を
そうやってあなたがいつしか待つのをやめた姿を覚えている
旅立つその背中を

会えなくても、忘れないでね
もし忘れそうなったなら、雨の後に水溜まりをみればいいわ
いつでもそこに見つけるでしょう
私の愛を見つけるでしょう

すべり台を滑り降りて、そのまま高く飛んで、水たまりに飛び込んだ少女を知っている

(母に捧ぐ)

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