雨のあとの水溜まり
昔々、もっと昔に少女だった人から聞いた話をしよう
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昔々、水溜まりの向こうに側には、子供の国があるのだと信じていた少女がいた 少女はけれど、そこで暮らすわけにはいかなくて、 後悔と痛みを学びながら、そこに信念を積み上げ、いつしか母になった 母は子供を抱きながら語る あの水溜まりをごらんなさい 青い空と白い雲とお庭の木々が映ってる 今日は秘密を教えましょう あれは本当はね、水の反射ではないの 固く閉ざされた向こう側の世界が 雨の後だけこの世界とつながって、太陽の光の反射で、ちらりと覗いているのよ あの国の海の底には、ねぇ、私たちの叶わなかった夢が白い貝になってたゆたっている あの国の山の奥には、ねぇ、あなたが誰かのために流す涙を糧に育つ花々が咲いている 昔は迷い込む子供がいたけれど今は聞かない でももしあの世界から迷い込んだ誰かに会ったら、味方になってあげるのよ 貴方のことが好きだから、会いに来てくれたのよ あの国の夜空には、ねぇ、記憶が星々になって瞬いている あの国の風雨には、ねぇ、歌になった記憶が刻まれている そして そうやってあなたがいつまでも待ってた姿を覚えている あの子と会う日を そうやってあなたがいつしか待つのをやめた姿を覚えている 旅立つその背中を 会えなくても、忘れないでね もし忘れそうなったなら、雨の後に水溜まりをみればいいわ いつでもそこに見つけるでしょう 私の愛を見つけるでしょう
すべり台を滑り降りて、そのまま高く飛んで、水たまりに飛び込んだ少女を知っている
(母に捧ぐ)