最初の晩

初めて仕事で海外に滞在したとき、私は学位を得たばかりの研究員で、行先はフランスでした。サン・シエールという、パリから電車で40分くらい離れたベルサイユの近くの町でした。

ヨーロッパは初めてではなかったけれど、到着した日のことはとてもよく覚えています。

多分、少し不安だったのですね。

空港までボスが迎えに来てくれたこと。沈む太陽の光の透明さ、その光にバルビゾン派の風景画を思い出して、絵画の中の光や空気が、画家たちにとっては日々目に映る風景であったことをしみじみ感じたこと。

その話を車の中でボスにしたこと。

滞在先の宿舎には修士の学生から私のような海外からの研究者まで10名くらいの人が滞在して、でもその晩はとても静かだったこと。

宿舎に偶然同じラボの博士課程一年生の学生さんが一人いて、英語は得意でないといいながら、部屋を見せてくれたり、ジュースをご馳走してくれたりしたこと。

いっぱい笑いかけてくれたこと。

でもその彼も、実は研究所に来たばかりで、一生懸命フランスになじもうとしていた人だったこと。 

昔々の、静かな優しい思い出です。

宿舎では、夜に出掛けたければ誰かに声をかければよかったし、皆で連れ立って花火を見に行ったり、パリでピクニックしたり、ショッピングに行ったり、晩御飯の時間はキッチンに必ず誰かいて、おしゃべりしたりごちそうになったり。

私は、今もあんまり成長できていないのですけど、実にひとりよがりの小娘でした。だけど、今よりにこにこして、誰でも信じることができる、幸せな青年でした。そういう私をそのまますっぽり受け入れてくれました。人の話を無言で聞いて陰で批判する人もいなくて、思うことを真っすぐに、いろいろなことを語り合えた人たちと出会いました。誰の意見も否定せず、自身の意見も否定せず、考えを広げて、お互いを知るだけで満足だった気がします。

人として出会い、人として別れた友人たちです。

思い出すときは、到着した日の白く優しい太陽の光の中が大きな袋になって、ボールになった一つ一つの出来事をその光の袋から、一個一個取り出すような気持ちになります。

ボールも淡く光っているような気がします。

たった半年の滞在でした。楽しさがギュッと濃縮されていた時間です。

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