各国のお寿司

和食といえば、お寿司、というイメージが定着して、そろそろ20年くらいでしょうか。

宇治のお寿司屋さん。可愛さに喜びがあり、目にも美味しい。

たった20年、されど20年。どなたかが戦略を立てて売り込んでいったのか、たまたま海外の要人が来た時のもてなしに供されたのがもてはやされたのか、きっかけは知りませんが、海外を旅するとあちらこちでお寿司屋さんを見るようになりました。

お寿司、似ているけど、その国の食文化だけでなく、どんなに似せようとしていても、各国ともその国でとれる魚介類を使用することやお醤油の種類なんかでだいぶん姿も味が変わってきます。カルフォルニアロールなんかは、最初は日本人には、なんじゃらほい、邪道である、などと言われていましたが、今は日本人も大好きで、逆輸入で大成功した海外のお寿司になりました。チキンもアボガドもサーモンもおいしいですよね。

おにぎらずが流行ったのはいつだったかしら。これも逆輸入成功例だったと思います。15年くらい前に初めてオーストラリアのスーパーで、サンドイッチのおにぎり版、として発見しましたもの。日本ではやったのがその後でした。これも日本でしっかり地位を確立。

外国は醤油以外にもマヨネーズ系のクリームを合わせるところも多く、すし飯に酢を入れないところも多い。すし飯のお砂糖と酢は10%程度しか入ってませんが、これを抜いたら、お寿司もなんだか気の抜けたお寿司になると感じるので、個人的には入れてほしい。

アメリカはさすが日本と親密なだけあって、全く日本と同じようなお寿司から揚げ物やチーズを入れたジャンクフードのようなお寿司まで、なかなかに手がたくバリエーションも豊かです。オーストラリアもこれに似ていますが、オーストラリアは、ご飯にネタの乗ったザ・お寿司、というよりは、巻きずしが好まれている印象です。フランスのお寿司は外観は日本のお寿司によく似ている、が…、なんか魚の食感が違います。原因は不明。あと、お醤油が全然違います。中国の方が多いので、和食の店もレストランの醤油と言えば「スイートソイソース」。フランスの人はこれをたまり醤油みたいな発酵時間による甘さで、とても正当なお醤油と思っていましたが、私にとっては醤油というよりはタレっぽかったです。日本では見たことない醤油ですが、かければかけれるほど美味しかったので、いっぱいかけて食べてました。決してしょっぱくなりすぎません。だから少なくとも日本で使っている醤油じゃない、と思ったわけです。中国というよりはスイートチリなどを編み出しているマレーシアみたいな東南アジア発祥の中華食材なのではないだろうか、とにらんでいますが、真偽は不明です。日本でも、ごくまれに出会えますが、スーパーなんかでは見たことないです。出会いたいですね。タイで見たお寿司はカラフルでした。カラフルなお寿司は、いろいろなところで時々見かけました。

魚は種類だけでなく輸送も大事です。日本は津々浦々、魚が生臭いなんてことは、お刺身用でなくてもめったにありませんが、海外では時に普通です。例えば昔オーストラリアにいたころは、漁港で水揚げしてすぐ冷やされて冷凍される日本のシステムは当時のオーストラリアにはなかったので、魚はよくて冷蔵トラックあるいは氷で冷やされた状態で運ばれていました。どうしても匂ってしまうのでネタにするような状態を保ちにくいと聞いたことがあります。フランスのお寿司も、一食5000円とかで食べてもなんとなくしっくりこなかったのは、この辺も関係しているのかも。その時のお店は海は車で2時間くらいのところだと言っていましたが。

実は私お寿司が嫌いな子供でした。生魚が苦手だったのですね。なので、これはお刺身、これがお寿司、という程度の印象でした。なぜ日本の大人の男の人たちは、会食となればあんなにいそいそお寿司をごちそうとして供するのでしょうか。予算で足りる大衆的なお店のお寿司もごちそうみたい…。と不思議に思いながら育ったため、大人になってもそこまでお寿司に高い関心がありませんでした。なので、海外に行くたびに「うちの国の寿司を食べてくれ、日本に負けないくらいおいしいから」とか、「日本の味が恋しいだろう」と笑顔満面で食事に誘われるのはうれしいのですが、お寿司屋に連れていかれて、「うわぉ美味しい!」というコメントはなかなかできなかったのが申し訳なかったです。日本に負けないくらいおいしくても、日本のお寿司をそもそもすごく好きなわけではないのですもの…。ヨーロッパでは私の好きなただの焼き魚や煮物、冷ややっこやつくだ煮なんかは、B級グルメ以下の視線を向けられたので、悲しいときもありました。サトイモ煮っころがし、食べてみればいいのに。しかもレストランで食べようとすると腹が立つくらい高い。揚出汁豆腐20ユーロってどうしたわけでしょうか。400円だろ、と思ったものです。まぁ、フランスはたこ焼きも8ユーロでしたので、揚出汁豆腐はたこ焼きよりは地位が高い、と考えればよいのでしょうか。。。

アメリカは、お寿司以外の和食もよく知っている人が多かったです。この辺は歴史的な国々の関係を思うと興味深いです。

庶民レベルでの視点ではありますが、海外に伝わった日本という国は、ヨーロッパには日本の一番、食事ならお寿司、お茶ならお抹茶、煎茶も松より梅といったものが伝わって、戦後の日本にどっしり腰を下ろしたアメリカは、大衆文化から修行して極められた粋のところまで、知っている文化の幅が広い。中国や韓国、東南アジアは、歴史的にも距離的にも近いので、相互に影響しあって、お互いがお互いのいいとこどりを文化を吸収して内包していっている、という印象でしょうか。

スイートソイソースやアボガドロール、カルフォルニアロールににこにこする、ちょっとダメな海外のお寿司の批評家でした。

そんなわたしが、これは美味しい!と思ったのが、ノルウェーのお寿司。さすがの魚でした。輸送もそこまで気を使わなくても、そもそも冷凍されているのと同じような気温のところで捕れて運ばれるのか臭みもゼロ。醤油も普通。名古屋の天むすみたいなエビフライが入っていることもあり、心から楽しめるお寿司でした。彼の国の魚はうまい。「美味しい」というより、「旨い」です。ノルウェーのスーパーはEUじゃなかったら大変だったろうなぁ、というくらい季節感のない輸入品ばかりの食材で、生魚もあまり見たことないですが、魚は美味しいです。サーモンじゃなくて、実はタラが国民魚です。そういえば、ノルウェーも魚といえばサーモン、のイメージが定着していますね。輸出品はその国の顔になってしまうことがあるようです。

そんな私ですが、実は時々お寿司を食べたくなります。スーパーなら滋賀県の大手フレンドマートさんのお寿司は美味しい!ここまで読んできた皆さんにはなんとなくわかるかと思いますが、おそらく寿司米がおいしい。お寿司はそこまでじゃなくてもシメサバは大好きな私、フレンドマートさんのお寿司は私にとってはこの辺の煩悩を満たすお寿司です。フレンドマートさん以外のお寿司は、他のスーパーも、すてきな料亭も、酒造会社さんの看板レストランも、特に感動するお寿司ではなく、とくに食べたくもならない。不思議なフレンドマートさん。推測するに、フレンドマートさんのお寿司は子供の好きなお寿司です。ちなみにインドネシアからの留学生の絶大な支持を受けていたのがくら寿司さんで、こちらはいつか行ってみたいと思ってます。

人生で一番おいしかったのは、九州の唐津で食べた、板前さんが握るお寿司。父が連れて行ってくれた、お皿のない本格的なお寿司屋さんのお寿司です。初めて行ったとき、カウンターにドーンと握りが乗ったときはちょっとびっくりしました。やっぱりプロは極めています。九州の魚は美味しいです。

旅行するときは、その国のものを食べようと意気込んで旅する私ですが、そこに誰かがいて、自分の国のものを違う角度から見ながら味わう、という経験も宝物でした。日本文化の再発見とか、その国の味の再発見になったり、連れて行ってくれた人の優しい気持ちそのものが、いつまでたっても味わい深い、むしろ時間がたつほどに味わい深い、食の経験になりました。

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