(film)天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント

娘の勧めで2018年に公開された映画を見ました。

https://eiga.com/movie/91584/

「あなたはなぜクリエイティブなのですか?」という問いに、芸術家、政治家、作家、科学者などが答えていく映画です。こんなおばあちゃんの私でも知っている人がたくさん出てきます。繊細で苛烈な芸術家 マリーナ・アブラモヴィッチ氏、チベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世、アパルトヘイトと戦ったネルソン・マンデラ氏…彼らの考えを聞けることを非常に貴重だと感じることができる素晴らしい問いだと思いました。

芸術家が多く登場していて、映画ではもちろん「創造的」であることが、人類の一つの重要な性質としてハイライトされています。それぞれがそれぞれの意見を持ち、それぞれがそれぞれに意義を見出している自信の中の創造性。答えを決めつけないように構成されたドキュメンタリーで、制作者であるハーマン・ヴァスケ氏の最大限の配慮を感じるのも興味深いことです。

「創造性」

自然科学者として実験を積み重ねて論文発表をしたこともあれば、芸術にあこがれる者としてパリで絵画を学んだり、好きな絵画が描かれた地を訪問したりしてきましたが、残念ながら私はこの性質を自身の中に見出すことはできません。まぁ、無名のまま80歳ですので、それがその理由なのかもしれませんが、だからといってこれまでの生き方をつまらないものだったと否定する気もありません。

「創造性」を私の中に見出すのは、私自身ではなく、周囲の人間たちだ

私はホーキンス博士の言葉に真実を感じた人間の一人だというだけの話です。

「創造性」というのは誰もが有していて、それを芸術家のように華やかにあるいは強烈に発信する人たちと同じものを自身の中に見出すことは、実際には多くの人には難しいのではないかと思います。例えば、友人には博士号を取っても就職の壁にぶつかり言語学の教師になって教育という現場の堅苦しさに苦労した非常に創造性にあふれた素晴らしい芸術の才の持ち主がいますし、杓子定規なイメージのある官僚という職に長く就いているユーモアとセンスにあふれた友人もいます。

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また、私自身は、平和の根底には「想像力」の方が「創造性」よりも重要である、と考えます。文明の根底には「創造性」がありますし、文明は平和の守護神であるということに同意した上での意見です。

難民の家族の絶望、戦争で心閉ざさざるを得なかった少女の心、虐待を受けた子供たち…殴られたものの衝撃や痛みは殴られたその人にしかわかりません。殴られる、という経験を自身もしたことがあったとしても、どれ一つとして同じ経験は存在しません。同じ経験をしても、同じようには受け止めません。語り、歌い、表現していく行為のなかに、願いがあって、願いに共感するためには想像力が必要だと思っています。爆撃が人間の体を破壊することを想像できれば戦争できる政治家はおらず、見下すことで傷つく相手の心を想像できれば自己防衛のためにいじめに加担する人はいなくなる、と信じたい。人には暗い側面もあり、社会から逸脱する欲望を抱く人がいなくなることはないでしょうが、みんなが揃って誰かを苦しめる方向へむやみに迎合することはなくなると私は信じたいのです。自身が経験していないことを深く想像して共感できることが、他者のことを理解し、考慮するために必要だと思います。

創造的であることは、互いをリスペクトした人間社会の努力に穴をぶちあける時もあります。良い風が吹くこともあれば、崖に突き落とされることもあるもの。ただ、

心を閉ざしては想像力は羽ばたかない

自己の防衛に働き過ぎれば想像力は働かない

そういう観点から、創造力と想像力は手を携えるものであると思います。

ハーマン・ヴァスケ氏は107名の著名人のそれぞれの言葉を、「あなたはなぜクリエイティブなのですか?」という同じ問いで繋いでいるだけでなく、順番を工夫して意味を持たせるように構成しています。私自身は、女優 ジャンヌ・モロー氏とファッションデザイナー ヴィヴィアン・ウエストウッド氏の言葉に、瞳を見開く思いでした。

この映画を、人間社会について、まじめに、でも前向きに考えたい日に、多くの人に見てほしいと思いました。

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「目的地を決めるよりも、希望を持って旅を続けていきたい」(作中、ホーキンス博士の言葉)。

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