教会の鈴

鐘の音ではなくて、鈴の音が大好きで、毎週通っていた教会があります。

淡い光が揺らめく、遺跡を包み込む緑豊かな渓谷の始まりの、地図の隅っこにある、小さな町の小さな教会。

パリから電車で40分、Gif-sur-Yvetteの町の古い小さな教会

多分作り替えられたりしているのでしょうけど、非常に古い教会だそうです。友達は紀元後700年ぐらいに建った教会と言っていたけれど、真偽のほどはわかりません。

日曜日のミサでは、終わりの方で、神父様が参列者に祝福をくださるお時間があるのですけど、その時に聖水を振りかけるのではなく、鈴の音を鳴らす教会でした。

たくさんの人がいるのに、静寂の中にシャラランとそれは美しく空間を響かせてなる鈴で、祝福が精霊たちに姿を変えて音と戯れながら舞い上がっているように感じたものでした。

その音を聴くためだけに通っていました。

まるで光を切り取ったかのような美しい空間がそこにはありました。

最後に隣人同士で握手するところまで進んだらミサはほとんど終わりです。短期滞在でふらりといる、見知らぬ、奇妙なアジア人であった私とも、暖かな握手を交わしてくれた人たちの住む町。

慌てる親を横目にミサの進む教会の中を走って笑う子がいたり、それを見てほほ笑むお年寄りがいたり、シンプルなステンドグラスから漏れる陽光が、石造りの窓辺でゆらゆら揺れめく静かな時間。

ミサの後、土曜日か日曜日の昼下がり、いたずらに裏戸を押してみたら難なく開いて、老いてもいないけれど若くもない男性が、奥の暗がりの中で苦悩に満ちて一心に祈っていたこともありました。

こじんまりした丘の上に建っていて、ミサの始まりと終わりに以外には、鐘が鳴っていた記憶もない、静かな町の静かな教会。

古い歌を歌う少女とすれ違った教会の裏手

その営みを絶やさすことなく、今もきっとそこにあって、日曜毎に安心に満ちた光の時間を紡いでいるのでしょう。

毎週、一回だけ、その音を響かせ続けている鈴の音とともに。

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