規格外の小さき花
今日はバレンタインデーですね。
皆さまが、大切な人と楽しい一日をお過ごしであることを祈ります。
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家の近所に、100円から200円で1~2輪の単位で花を売っている、無人のスタンドがあります。
無人ですけれど、ほとんど毎朝お花を持って来て、夕方に片づけて行かれる場所です。代金を、花が置いてある軒先の家のポストに入れるので、その家の方が販売されているのかもしれませんが、詳しいことは存じ上げません。
最初はその家の方がどこかに畑を持っていて、摘んだお花を販売されているのかと思っていたのですが、季節のお花というよりはスーパーや花屋さんと連動した、季節を先取りしたお花と種類が同じですので、おそらく市場の規格外といったような、小さなお花や大きすぎたお花、あるいは残り物などが販売されているのだと思います。どのお花も、お庭に咲いていたものを摘んだにしてはきれいです。
このあいだ散歩の途中で、そこで小さな蕾のピンクのチューリップを買いました。
良く見たら葉の下の方は傷んでいて、茎も少し悪くなってきていたので、家に連れて帰っても花開くかわからない、と思ったものの、あまりに可愛らしい蕾だったので、つい買ってしまったのでした。
すぐ家に帰って水に活けてあげた方が良いような気もしましたが、散歩に出たばかりだったので一時間くらいなら大丈夫かしら、とお花を片手にお散歩を続けることに。
「可愛いお花ですね」
カナリアやインコをたくさん飼っている幼稚園の前を通り過ぎる時、これまで一度もお話したことのなかった用務員のおじさんが、笑顔満面で声をかけてくれました。
ちょうど幼稚園が終わった時刻だったようで、子供を迎えに来たお母様や小さな子供たちもニコニコとこちらを見ていました。
「あちらで買ったんですよ」と私もはにかんで応えます。
そしてもうしばらく行くと、
「こんにちは!」
帰宅途中の小さな小学生の女の子です。
「まぁ、こんにちは」と挨拶を返したら先頭の女の子の後ろにいた男の子たちも「ちわー」「こんにちはー」と挨拶していってくれます。
思わずもっとニコニコ。
そして、すれ違って3歩くらいしたとき、「チューリップだったね!」と後ろの男の子に話しかける女の子の声が聞こえました。
今にもしおれそうな、売れ残りみたいにバケツに残ってた、とても小さなチューリップ。
普段は素知らぬ顔ですれ違うだけの人たちとの優しい交流を運んでくれたのはあなただったのね…。
私はそっとその小さな蕾を撫でました。
そうしていつもの散歩ルートをせっせと歩いて、そろそろ家の近所まで帰ってきたときは、バケツから取り上げた時よりも、もっとしおしお。 やさしいプレゼントをくれたこの子だけれど、水切りをしても、もうだめかもしれないわ…。
それから、急いで家に向かう途中のマンションの入り口でばったり出会った知らないおばあさんがやっぱり「あら、まぁ。チューリップですねぇ」と目を細めて声をかけてくれました。
今日一日でこんなにもたくさんの人に、その可愛らしい姿を愛でられ、愛され、あなたを持って歩いていた、というだけの私に、素敵な時間をくれた小さい花。
きっと、お花屋さんに卸せなかった規格外の花。小さくて弱弱しいチューリップ。
この子はもう長く生きられないかもしれないけれど、なんてすばらしい力を持っていたのでしょう。
家に帰って、心込めて水切りし、小さな瓶に挿しました。思った通り茎の先端はずいぶん傷んでいました。
大丈夫かしら、大丈夫かな、と思って毎日見ていた、小さなお花。本日無事に、蕾を開きました。
お部屋にはにかみ屋のお嬢さんがいるようです。
ありふれたことのようだけど、その花の尊さに胸を打たれずにはいられません。
貴方の大切な人と、あなたが過ごす今日が、そんな小さな、けれど優しい、光にあふれたものでありますように。
ハッピーバレンタイン!