子供の成長⑤

僕が僕らしくあるために 僕は夢を持った

僕が僕らしくあるために 僕は夢を追う

そうして僕は地球を感じた

森の中、木の葉や草 獣や水の気配を知り、 

雨の音 日照りの揺らめき 日陰のコンクリのひんやりとした静けさ アスファルトが濡れる匂い 

古い本の匂い 新しい本の匂い 読めない世界地図の無限の広がり

肌が感じた、そこここにただ在るものたち

足は 田舎道を抜け 町の石畳を踏み 瞳は あの人やこの人の姿を映し 

ラジオやテレビは もっと広く 遠くのものを 僕の元まで届けてくれた

とても広かった僕の世界 果てのなかった僕の世界 辛くても切なくても苦しくても 前を見れば 自然に駆け出す足を止める術はなく どこまでもかけて行く

珍しいものがあるわけじゃないんだ 刺激的なものがあったわけじゃないんだ

でも見慣れた場所があり、見果てぬ場所があり、へんてこりんなビルの中にはちっぽけな僕が安心して眠る場所があった 

ねぇ、僕は思うんだ 僕の少年時代は幸せだったろう 

地面が揺れる災害も すべてを飲み込む赤い炎も 人を丸のみする鉄筋構造も 老いた夜の語り部が語る 不思議な幻のようだった

そんな僕がこんなことを言うなんて 正しいことではないかもしれない

でも 僕は 昔の僕を含めたすべての子供の 強さを讃える

子供の世界が 大人の目に どんなにみじめに映っても 子供の目に 世界がどんなふうに映っているか 大人になってしまった大人たちには 本当に分かることはきっとない

毎日ごみを拾いに行っても ごはんを満足に食べられなくても 自分の持ちものなんて一つもなくても

子供の世界には 簡単には消えない 灯りがある

たとえ その子の目に見えていなくても その灯りはぬくもりとなって その子を包みこんでいる

その子自身の優しさだったり その子自身の我慢だったり その子が飢える愛だったり… それは その子の内側から流れ出る燈火

ただ、無心に 無邪気に 何かに向けている 一途な思い

ただそこにあるだけの 無数の地球上の 存在が そのぬくもりに惹かれて そっとその子に寄り添っている

その子のために涙を流し その子ために祈っている 

その子とともに笑い その子の傍にいることを喜んでいる

すべて 子供たちの 同胞 だ 

子供はだから 人間の大人の力を はるかに超えた場所で 慈悲を持ち

自由に泳ぐ魚のように 水面に踊る光のように 天衣無縫な 聖人なのだ   

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

前の記事

規格外の小さき花

次の記事

子供の成長⑥