山上の水

うねる山を越えて流れる雄大な水の流れがある

水は自分がどこから来たのか分からない

気が付いたら ただ流れていた

ある日 水は 蝶が舞い鳥が歌う けれど 静かな森の一角を通りすがる

白い光が満ちている

寂しいけれど きれいな場所だ 水は思う

しっとりと空気をまとった木々たち その長く伸びた影のさき

手を振る小さな姿をみる 

まるで 別れを告げているよう なのに遊びましょうと誘っているよう 

ひらひら ヒラヒラ ひらひら

それは 青い空に笑って しゃがみこんでは 草を愛で 風に耳を澄ます

丸みをおびた体を 跳ねるように揺らして 水と競争するように 駆けていた

バイバイ 大好きな人

明るさの中で 影が 揺れる 

はためく衣の裾が 空気に溶けているようだ

口をとがらせて けれど楽しそうに 水の流れと競争しながら 影は土を踏む 花を揺らす

お母さん お父さん

木漏れ日が新緑を透過して ゆらゆら水面に反射する

静寂の中 鈴のように響く 可愛らしい笑い声

一人ぼっちで笑っている

ひらひら ヒラヒラ ひらひら 揺れる

白い花

小さくなる後ろ姿 水は声なき声を聴く

神様、私はここにいます

千々に乱れる心と 悟りきった静寂を内包し 水は膨れる 水はあふれる 

水は父を知らぬ 水は母を知らぬ 

けれど友を得たように思う そして水は神を知っているように思う

だから 水は祈る その小さな影を想い

時にたゆたい 時に泡をはじかせて 

水は止まれない 水は振り返らない ただ進みゆく 光る射す方へ

流麗なその姿 

昨日も 今日も 明日も

海と 出会うのだ

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