しょうちゃん

今日は木が笑ってる

風が吹き抜けるからだ

9歳のしょうちゃんは、木登りが上手な 小さな男の子だ

笑ったり泣いたり、毎日忙しい

今日は少し暑くて なんだか走り出したくなる日

散歩に行くぞ

しょうちゃんは大きく手を振って歩き出した

しばらく行くと おっちゃんに会った

おっちゃんはいつも 眉間にしわを寄せている

なんでって聞いたら

大人の男はへらへらせんし 簡単に泣いたりはせん 苦手なことに毎日挑む 戦士なのだ、という

苦手なことに挑むからこそ、立派な大人になるのだという

ふぅん

木登りする? と聞いたら木登りはできないという

木登りおしえてあげようか? しょうちゃんは礼儀正しく聞いた

俺は忙しいんだ、と男はぶっきらぼういう

ふぅん

しょうちゃんはちょっとほっとする

じゃぁ、苦手なこと全部に 挑んでいるわけじゃ ないんだね

おっちゃんバイバイ。

僕も忙しいから行くよ、今日はじいちゃん家の ネズミの木に登るんだ

苦手なことを毎日しているなんて 大変だな

しょうちゃんは考え込んだ

しばらく行くと 大きなネズミの木がある 小さな家が見える

じいちゃんが しょうちゃんを持っている

じいちゃんは いつも笑ってる

お前さんといると笑わずにはいられないよ

にこにこ笑って しわしわの手でなでてくれる

じいちゃん、木登りしよう

いいねぇ、しょうちゃん。でもじいちゃんは 自分で登るより 木登りするしょうちゃんに おやつを持ってきてやろう

おやつを用意する方が得意じゃ。お互い好きなことを 楽しくやったほうが、うまくいくのさ。

じいちゃん ウィンク

うん、僕もじいちゃんと同感だ

苦手なことを嫌々やるより、好きなことを楽しくやった方が、いろんなことがうまくいく

ばあちゃんが笑う

ばあちゃんも同感だ

おやつは 饅頭が 3つだね

縁側に座って しわしわの手を 時々こすって 日にかざす

青っぽい目を こらしている

膝に乗って そっと 覗いたら 光を瞳に移した 髪の長い少女が

光に溶けて笑った

ばあちゃんがもう70年遅く生まれていたら 僕と一緒に 木登りできたね

しょうちゃんが言うと、じいちゃんとばあちゃんが 声を合わせて笑う

ばあちゃんは 一緒におやつを食べるのが 得意なの 

ばあちゃん ウィンク

それに ばあちゃんは しょうちゃんの木登りを見るのが 好きなのよ

じいちゃんは 昔は登る方が好きじゃった だが今は見るだけで ウキウキするな。いがぐり頭の少年が じいちゃんの 声で言う

日差しは柔らかく、風が吹き 木が歌い 泥は跳ねる

闇に咲く花があり、優しいまなざしがあり、僕を守る家がある

しょうちゃんは 新しいこと 好きなことを 毎日少しずつ増やしてる

しょうちゃんは今日も忙しい

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