山のおにぎり

かなちゃんは小学1年生

こっそり兄ちゃんの自転車で練習して、幼稚園の時からずっと補助なし自転車に乗れたことが自慢です。兄ちゃんは何でもできるけれど、かなちゃんだって負けちゃあいない。

でもかなちゃんは優しい兄ちゃんが大好き。

今日は日曜日。体を動かすのが大好きなパパが水筒を詰めながら、かなちゃんに聞きました。「今日はしょうちゃんとパパと、油山まで自転車でいってみる?お弁当を持ってさ」

いっく、いっくー

油山はこの間パパとしょうちゃんが二人だけで行ったところです。かなちゃんはぴょんぴょん跳び回りました。

「えぇ、ショウタとカナタを連れていくの?危ないわ」ママは心配そうだったけど、かなちゃんもしょうちゃんもへっちゃらです。パパもにこにこ「大丈夫、大丈夫近いからね」と、ウィンク。ママはちょっと渋い顔をしたけれど、ま、いっか。「じゃ、ママはお留守番」、といって水筒とおにぎりをリュックサックに詰めてくれました。

出発進行!

へっちゃらだって言ったけれど、車が通る道を通って、こんなに長く自転車こいで出かけるのは初めてです。

いつもの遊び場所を通り過ぎて、車でしか通ったことのないところまで差し掛かりました。歩道を歩く人を見ると、ドキドキする心臓に合わせてハンドルがグラグラしそうになってかなちゃんは大緊張。

すいすい自転車をこぐしょうちゃんが、先頭。パパが一番最後です。

「あ、そこを右だよ」後ろからパパの大きな声が聞こえます。

いつもママと車で行く大きなスーパーをぐるっとカーブ。しょうちゃんは時々後振り返りながらかなちゃんが着いてきていることを確認しながら進んでいきます。近くを車が通って、排気ガスのくさい匂いに顔をしかめるかなちゃん。兄ちゃんはニコニコしています。兄ちゃん、怖くないんだな。2回目だもんな。

「パパー、今度の信号どっち?」しょうちゃんが聞きます。

「あ、今度の信号が来たら左の歩道に移っておくんだ。そしてまっすぐだよ」

しょうちゃんはかなちゃんよりカンもいいし運動神経がいいのです。かなちゃんだって負けてはいませんでしたが、よく転んだし、カンもいい方ではありません。

「カナタに追いついたぞぉ~」パパが後ろからきているのは少しうるさかったけど、でも安心。「もうすぐそこだぞぉ~」

顔をあげると、しょうちゃんが山の入り手で待っています。そうか、自転車を止めて登るんだ。

3人は登山道の横のガードレールに、人の邪魔にならないように寄せて自転車を止めました。3つの自転車をチェーンでつないで、先頭のしょうちゃんの自転車の前輪をフェンスの網に通して止めます。これで安心です。

「僕が一番だ!」自転車を止めたら、しょうちゃんがさっと登山道を山頂に向けて走り出しました。

かなちゃんだって負けてはいられません。二本足で走るのは、しょうちゃんにだって負けないくらい上手にできるのですから。

「兄ちゃん待てー!」

かなちゃんも後を追って走り出しました。パパはなんでかスキップ。

「二人ともまって~」パパの声は後ろに聞こえましたが、パパはそんなことを言って、時々スキップでへらっと二人を追い越したりするのですから、憎らしいパパです。

パパには負けられません。しょうちゃんとかなちゃんは小さな体を揺らして二人でどんどん登っていきました。

息が切れたころ、後ろの方からパパのヘルプが聞こえました。「お~い、ほんとに待ってよぉ~」とパパ。仕方ないなぁ。二人は止まってあげることにしました。ちょっと息も切れたしね。

パパ登場。「水と食料を持っているのはパパなのである。探検隊は、パパを置いていくと飢え死になんだぞ」そんなことを言いながら水筒のコップにお茶を入れてくれました。

ぷはー、美味しい。よし、また登るぞ!

「パパはさぁ、昔ママと富士山に登ったってほんと?」しょうちゃんが聞いています。

「うん、登ったよ。ママは登山と旅行が大好きだからね」そしてパパはママが大好きだからねえ~

「富士山って日本で一番高い山?」かなちゃんも聞きます。

「そうそう」パパ、うんうん。パパの愛も日本一だからねぇ~

「しょうちゃんも登りたい!」「かなちゃんも!」日本一なんて、二人にもピッタリな山じゃないですか。しょうちゃんとかなちゃんは声をそろえて言いました。

「いつか家族みんなで登ろう。われら一家は日本一の探検隊になるのであーる。えへん。」なぜか威張るパパ。異議はないけどさ。「あ、みてごらん山頂って書いてる矢印だよ。あと100メートルだ」

油山は草が広がるなだらかな山。あっても低木くらいで全体的に開けた山です。歩行者用の道が少し急斜面になる手前に、木でできた矢印の看板があります。この間学校で習ったばかりの「山」の字と知らないもう一字。「これで山頂って読むんだよ」としょうちゃんが教えてくれます。なだらかな山の斜面から風が吹き下ろしてきます。

山頂についたらおにぎりタイム。

ママが握ってくれたおかかのおにぎり。

「ん~おいちい!!」口いっぱいにモーグモグ。

パパとしょうちゃんは別な味のを食べています。なあにそれ、とチェックしたかなちゃん、「うわ、すっぱ~」。はい、パパ梅干し。兄ちゃんはシャケみたい。

柔らかな日差しと、にこにこパパと兄ちゃんとおいしいママのおにぎりとお茶。こんなごちそうないなぁ。

家に帰ってママに報告しよう。山頂到着、1番のろまだったのはパパだったこと。かなちゃんの方が兄ちゃんより半歩だけ登頂が遅かったこと。自転車が少し怖かったこと。でもちゃんと転ばず来れたこと。

その日胸いっぱいに幸せだったことを、かなちゃんは、小学2年生になっても3年生になっても中学生にあっても、それこそおじさんになっても、時々思い出してクスクス笑うのです。

おにぎりっておいしいね!

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