モンゴルバターは世界一
人生で食すことのできた、一番おいしいバターは、イギリスでもアメリカでもカナダでもノルウェーでもなく、日本でもタイでもインドネシアでもなく、モンゴルです。
ウランバートルから車でたった40分くらいのところで、2晩だけ滞在したノマドの家族がいます。お母さんはイルカさん、お父さんはダワーさん、お子さんが4人いますが、一緒に住んでいたのは20歳のブバーだけでした。イルカお母さんが、それは料理上手で(モンゴル料理もですが、何よりもイルカさんが料理上手)、彼女の作るものは、彼らの家族の近所のおばあさんよりずっとおいしかったものですが、その中でも、バターとヨーグルトとスーテ茶(牛乳茶)のおいしさは忘れられません。アルル(チーズ)の酸っぱさと、その強いにおいも覚えています。
ノマドの家はゲルです。家畜を連れて暮らしていて、頻繁に移動するわけではないけれど、四季の変化に合わせて住むところは変わります。立てるのも1時間半くらい、家族だけで何とか出来るようです。構造は、真ん中に大きな暖炉があって、これを中心に丸く作ります。この暖炉で、暖を取り、料理を作り、何でもします。これを一時間半で家族だけで建てるのは、本当にすごいと感じる立派なゲルです。動物を連れているせいか、8月でも朝は氷点下になるモンゴルですが、ハエがいっぱいいます。ゲルの中にも入ってきますが、布をかけて上手にさばき、虫を殺すこともない、優しい家族でした。
お母さんは、朝一番におきて、火を焚いて、ボグド山にその日一番に作ったスーテ茶を捧げて祈り、ゲルの中がすっかり暖かくなったころに家族が温かな布団の中から起きだしてくるのでした。母のいる場所というのは、本当にどこでも快適だと、非常に感心したものです。
晩に絞ったミルクに、粉(おそらく小麦)を少し入れて、長い時間をかけて沸騰させて、これが冷めてくると、上にどっしり分厚い脂肪の層ができます。これがバター。脂肪が濃く、クリーミィーで、ほんのり温かく、いつも一番に食べさせてくれました。さすが草しか食べていない牛たちのミルク!冷めると固くなるのですが、私がいる間は二晩続けてバターを作ってくれて、いつも出来立てでした。お母さんの焼くパンも美味しくて、うっとりしました。クロテッドクリームに近いのかもしれないですが、あんなにまろやかなクリームにも出会ったことがありません。
脂肪分をバターにして、残ったミルクに少しの塩とモンゴルハーブを入れて煮立てて作るのがスーテ茶です。モンゴルの草原と空気にとても良く合う美味しいお茶です。ヨーグルトは絞ったミルクを一晩に外に置いておくとできています。
アルルというチーズはモンゴルの貴重な収入源でもあるそうです。ゲルのテントで日干ししていました。家族もお客さんもみんな大好きなアルルですが、においが強く味も酸っぱいというのが少し私は苦手でした。
暖かくて優しかったノマドの家族。帰国した後、一度お土産を詰めて送りましたが、半年後に受取人不在で返ってきてしまって、それきりです。
アイスクリームはなくたって、モンゴルの乳製品は、世界一!と今でも心から思います。
そして、本当に笑顔が素敵な人たちばかりだったのも。
今でも大好きな家族です。ブバーとはSNSで今も時々交流があるんですよ。