家まで案内してくれるのは…

スコットランドの空の島にいた時の話。

やっぱり迷子でした。(まぁ、自分は地図を読めないことを前提に、たいして地図も見ず、知らない国の知らない土地をうろうろすれば誰だって迷いますよね。)

不思議に見るものすべてがきれいな島でした。

バスで偶然乗り合わせた女の子と少しおしゃべりしたときに、

「私はここを出てグラスゴーへ行くわ。この島には何もないもの」と窓の外を見ながらいう女の子に

「でもここはとてもきれいだよ。私来てよかった!」

といったら、嬉しそうに笑って、

「yes here, we have such a dynamic nature (そうね、自然はとてもダイナミックよ)」

明るい空から降る雨、雲間の光、家々の間に小さなカフェ、水滴落とす木の葉、濡れそぼって佇む緑の風情。

霧雨に煙る車窓の風景を自慢げに指さしたことを鮮やかに覚えています。その声と笑顔を覚えています。

カールがかったくりくりした髪を短く切った、明るい濃い茶色の瞳のあの子は、グラスゴーの大学に行って、そしてロンドンや東京に行ったりしたでしょうか。彼女の心には、空の島の自然が、いつでもあったでしょう。そうであってほしいです。

ハギスは良かったけれど、ジャガイモがなぜかすっぱく、やや疑惑が残るランチプレート

ちなみに彼女の土地のおすすめ郷土料理はblood puddingとのことでした。

ハギスのことかと思いましたが、どうも違う模様。嫌いな人もいるけど、私は好きなの、みたいなことをごにょごにょ言っていたので、女の子らしい食べ物ではないのかもしれないなぁ、と感じました。

ブロッドプティングはその後食べる機会もあったように思うのですが、あまり記憶になく、いつかはきちんと味わっていたいと思っているものの一つです。

親切でいい笑顔でよく話してくれる人がいれば、旅人にとってそれ以上心強いことはないと私は思っていますが、まさにそんな旅人を幸せにする人たちばかりが住んでいた島でした。

そんな島を、旅した時の動物との出会いの話。

その時、空の島の、それまでいた交通の拠点となっていた町から離れて、近辺の別の島に寄ってから、エディンバラまで戻る長距離バスに乗るつもりでした。

フェリー乗り場に行くためにバスに乗っていたんですね。

そしてバスを降りてフェリー乗り場に向かう途中で迷っていたわけです。はい。

いつものように道の上を歩いてはいたのですけど、枝分かれの多い道で、林の中を右に行ってみたり、元の場所に戻ってみたり。

人はやっぱりいないのですけど、雨は止んでいて、お昼前で空気は爽やかで、少し不安を抱えながらも明るい気持ちでいつものようにともかく歩いていた時に、さっそうと登場したのが黒毛並みの賢そうなワンコ、そう、犬でした。

彼です!

私は、我が家の飼い犬以外の犬になれなれしくアプローチする危険性については重々承知しております。ですので、まずは2歩ほど下がりました。

しかし、彼は私に一定以上近寄ることはなく、賢そうな瞳でこっちを見るだけ。そんな風情にも、非常に礼儀正しい印象を持ったため、「やぁ、こんにちは」と丁寧に挨拶してみたのでした。(言葉のまんまに、人間の声で挨拶しただけです)

ところがどうしてなかなか、「こんにちは」と挨拶を返してくれたような気がした、ワンコです。

「迷子なのよ」

という私に、そうだね、的な相槌をうち、ワンコはくるっと歩き出しますが、なんでか不思議に振り返り、私が黙って立っていると、ワンコもそこに止まります。それで、向かう先に一緒に歩きだしてみると、ワンコも歩きだすのです。

時折振り返り、止まったり歩いたりするワンコ。ちゃんと私が付いてきていることを確認するみたいに。

迷子のさなかで特に予定もなったのと、ワンコへの好感度が高くなったので、おとなしくついて行く私。

そうしてワンコが連れて行ってくれたのが、陶芸家マギーの家でした。

林の中に、ちんまりと一軒だけ、それは可愛らしい家と工房で、陶器を焼いて生計を立てていた、若い陶芸家。彼女の焼く器は優しい色をしていました。

私はそこでワンコを見失ったのでした。

素敵なマギーのケーキと器

チリンチリンと扉を開けて入ってきた私に、「まぁ珍しい時間に珍しい国のお客さんだわ」と明るく笑って、迷子なの、という私にマギーはケーキとお茶を出してくれました。

「犬についてきたの?まぁ。。。その犬、3軒先の家の飼い犬かもしれない、わからないけど」

犬の様子を語る私にマギーは首をかしげます。

「え、フェリーに乗りに来たの?あと2時間で嵐になるらしくて、便は欠航になるかも、って聞いたわよ」

びっくりする私に、フェリー乗り場に聞いてあげる、と電話してくれて、とりあえずフェリー乗り場に行ってみるように助言もくれました。「フェリーが欠航になったら、B&Bを紹介するように頼んでおいた」

マギー、ウィンク

私は、当時はまだ学生で、イギリスの物価は高く、マギーのお店から買い物をできるほどの持ち合わせもなければ、陶器を担いで旅を続ける気概もなかったのですが、あまりにきれいな陶芸で、本当に優しくしてもらった思い出に15ポンドの(お店で一番安い部類)の、海の青と浜の白をイメージしている小さなコップを母のために買って、手を振ってフェリー乗り場に行きました。

車の通れないような小道を歩いていきついたマギー嬢の工房ですが、それは裏手で、前面は海に面していて車道が走っていました。

結論からいうと、フェリーは欠航になりました。

そしてマギーの言っていた通り、操縦士のお兄さんは、B&Bに電話してくれました。

「20ポンドで泊まれるからね」とお兄さん。

ちなみにイギリスのユースホステルがその当時ドミトリーで25ポンドだったので(そして通貨は1ポンド200円ほどだったので)、格安です。実は次の町では、宿の手配がなかった私。船着き場の町の探検ができなくなったのは残念でしたが、ラッキーでもあったな、と思います。

ふふ、その後、雨の降りしきる中フェリー乗り場まで迎えに来てくれたB&Bのおじいさん、ジェームズに聞いたのですが、フェリーの操縦士のお兄さんはマギーの旦那さんだったそうです。

ちなみにジェームズのB&Bは個室で暖かくて快適で朝食無料で、車ではっきり見えなかったものの水滴に向こうに見えた看板におると25ポンド以上するらしいことを知り、「20ポンド?」と確認した私に、「うん、フェリー欠航のための宿だから、気にしなくていいんだよ」と言ってくれました。(マギーの旦那さんには翌朝のフェリーで20ポンドだったか確認されました 笑)

B&Bのジェームズは、やもめのおじいさんで、お年寄りっぽく部屋に籠ってテレビをずっと見ていた記憶しかないですが、雨がやんで「散歩行ってくるね」という私に(ほかにお客さんがいなくて、ジェームズの家に居候しているような感じになっていたのですね)、「うん」と手を振ってくれ、「ただいまー」と帰ってきた私に「おかえり」と言ってくれ、暖房の付け方が分からなかったか何かで困って、ジェームズの部屋のドアをドンドンと叩いて、「ジェームズ!ジェームズ!」と呼んだら、大慌てで部屋から飛び出して来てくれたのを覚えています。

朝はまだ寝ていて、一人で勝手に朝食を食べて、置き鍵ボックスに鍵を入れて、一人チェックアウトだった気がするんですけど、元気でいるでしょうか。

マギーとマギーの旦那さんも、すばらしいカップルで、きっと今も力を合わせてあそこで幸せに暮らしていると思います。こうして書いていると、彼らがちゃんとそこにいるか、幸せか確かめに行きたい気持ちでいっぱいになります。

私がもうこんな年だからわかりませんが、ジェームズとマギー夫妻の3人は私の心に今でも輝く宝石のような思い出の、とても深いところにいる人たちです。

ワンコも!

先日亡くなってしまった我が家の犬のことも含めて、優しい犬がいるところには、温かい家があるのだと、そうであって欲しいし、だからこそ我々は仲間なのだと、犬という存在について思うのでした。

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