早春の贈り物

まだまだ冬将軍の面影の濃い森の中

ある晴れた日に大きな箱がアリ嬢に届きました。届けてくれた郵便屋さんの鳩も、普通は一羽で運ぶのにとても運べず10羽と郵便局員総出で運ぶ大きさです。

アリ嬢は箱を見上げてすっかり困ってしまいました

まぁ、困ったわ。こんな大きな箱、どうしたら開けられるかしら

そこに通りすがりのキリンさん

あら、お困りなの?まぁ私にまかせて頂戴

長い首をグイっと伸ばして、赤と白の糸でよられた水引を優しく引っ張った。リボンは簡単にほどけて、キリンは首を器用に使って包みをほどいてあげました。そしたら、今度は最初の大きさよりもすこうしだけ小ぶりの木でできた固い小箱が出てきたのでした。

まぁ困ったわ。こんなに硬い箱、私には開けられないわ

キリンは肩をすくめます。そこに熊が通りかかって、おやおやお困りなのかい?といって、その力強い腕で木の小箱のふちに手をかけ、そっとふたを開けたのでした。あらあら、そしたらまたまた箱が。今度は複雑な結び目の風呂敷でくるまれた包。

おやおや、困ったな。俺の爪が引っ掛かったらこのきれいな風呂敷を破いてしまうぞ。熊は眉尻を下げました。

そこに子ザルが通りかかります。

あ、僕こういうの、得意だよ!

そう言うと複雑な結び目を、優しく時間をかけてせっせとほどいてくれました。

なのに出てきたのはまた小さな小箱。みんなはすっかり呆れます。今度の小箱は仕掛け小箱のようです。美しい寄木紋様の小箱です。

ふぉふぉふぉ、そりゃぁ、東南の民が作る仕掛け小箱だ。非常に精巧で、知恵のあるものにしか開けられない。

不思議な贈り物の話を聞いて様子を見に来た長老亀がウィンク。仕掛けがわかるものは多くないが、わしのように知恵のあるものにはもちろん仕掛けがわかる。

そうは言いながらもなかなかの時間をかけて長老亀がやっとからくりを見破って箱を開いたときには、皆が拍手を送りました

みんなこんなきれいな模様の小箱を壊さずに、ちゃんと次の箱を取り出せたことがうれしかったのです。

ところが次に出てきたのは石の小箱。しかも箱を開けるようなフタにみえる部位がありません。さいころみたいな石のハコ…。

そこに…。

とまらないんだ、よけてぇぇ~

という叫び声とともに、追いかけっこをしていた3匹のウリ坊が突進してきて、箱をそのピカピカの肥爪でぽーんと蹴り上げてしまいました

あらぁ、とみんなは青い空に高くあがった箱をあっけにとられて見ているうちに、箱はなんとイノシシの末子のすぐ横にドーンと落ちます。

ぴゃっと末子が飛び上がって兄弟に飛びつきます。3匹のウリ坊が恐る恐る箱を見ると…。

箱はきれいに二つに割れていて、今度は柔らかな緑の草でくるまれた小包が顔を出しました。

あら美味しそう!冬の間、枯草ばかり食べていた鹿とウサギが喜んで、小包の草を、中身には触らないように気を付けながらもムシャムシャごっくん。

中からさらに小さな小箱。そろそろアリ嬢への郵便っぽいサイズになってきたね、と動物たちが笑います。

今度の小箱は小さいうえに、動物たちの指ではつまめないような細くて繊細な赤い色と白い色の紐でぐるぐる巻かれています。

小箱にぐるぐるの紐ががっつり巻かれているのを見て、ここは私たちの出番かな、とにっこり笑ったのは親戚のミツバチです。

ミツバチはブンブン音を立てながら糸の端を引っ張ります。フンコロガシが気を使って、糸を引っ張りやすいように箱を反対方向にコロコロ転がして助けます。コガネムシも面白がって、もう一方の糸を違う方向に引っ張ります。

こんな感じで森の動物の力を借りて、ころころころころころころ、小箱が転がります。

地面では小箱がころころころころころ

空ではミツバチとコガネムシに引っ張られた赤い色と白色の紐がひらひらひらひらひら

羽が日の光を反射して、時折、キラリ、と虹色に輝きます

ひらひらひらひらひら、キラッキラ

それをみて、最初の箱を結んでいた赤い色と白色の糸を、ハトがついばんでくるくると青い空へ舞い上がります。

青い空に赤い色と白い色の糸がくるくる舞っています。

あら、きれいね

まぁ、たのしいね

ころころころころころ

ひらひらひらひらひら

淡い光が空気に満ちて動物たちの顔が輝きます

ころころころころころ

ひらひらひらひらひら

光は春を待つ木々の梢を揺らし、ふんわり大地をおおって、柔らかく天へ広がります

コロン

最後にこぼれ落ちたのは角砂糖の小さな欠片

それを見てアリ嬢が、嬉しげに叫びました

まぁ、良かった!冬の間に生まれた赤ちゃんアリにあげるご飯がそろそろなくなりそうだったの!

動物たちはみんな笑いました

良かったねぇ、じゃあ俺たちそろそろ行くよ

まだまだ寒い、暖かく過ごしてな

しかし春がそろそろ来そうだのう

そういって手を振って、おのおのほんのり暖かくなった胸をお土産に家路に向かって行ったのでした

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