（徒然）膨らむ主食

「米は炊いたらふくらむから、超うれしいよな」日に焼けた顔をくしゃくしゃに目をいっぱい細めて笑った海外で出会った無邪気な同国の友人がいた。

行き摺りだったけれど、しばらく一緒に旅した元気で屈託のなかったその友人が言った言葉に僕は目を見張ったことがある。

実は考えたこともなかった。

僕らは若くて、お金はなくて、でもいろいろなものを見たくて旅していた。キッチンのついた安いバックパッカーに泊まって、スーパーで食材を買って自分で鼻歌を歌いながら調理すると、人が3食食べる時間帯は似ているので、同じ安宿に泊まっている人たちと友人になる。長く旅をするにはできるだけ節約するのが望ましい。とはいえ僕は腕力にはあまり自信がなかったので、持ち運ぶ食糧の基準は軽いことだった。だから主食はパン。あとは水とチョコレートと果物とカップスープの素みたいなのを常備していただけである。心が満杯の時には空腹はあまり感じないものだ。旅をしている僕の心は基本満足満杯状態で、そのエネルギー供給で、いくらでも歩けた。

そのころ僕は学生だったので、お金はないといっても、欲しい贅沢品はその土地のちょっと珍しいご当地アイスとか、ビスケットとかで満足だった。だいたい朝食付きの安宿にいて、まぁついてる朝食は安宿らしく食パンとジャムとかシリアルに限られるんだけど、朝はほくほく非常識にお腹いっぱいにしていたけどね。バックパッカーのおじさんたちは若者の旅を応援していて、食べる量に関しては気前のいい人ばかりだった。

ともかく、その言葉は僕を考えさせた。

コメは膨らむ。麦は炊いたら膨らまないけど、世間ではパンにして膨らませている気がする。

オートミールもクスクスも水を入れてやっぱりメッチャ嵩増しするし。。。ジャガイモやサツマイモは蒸かすだけだとあまり変わらないけど、料理法はいろいろあるし…。

実は世界の主食ってほとんど膨らませて食されているんじゃないかな、と。

人類がどれだけ飢えてきたかよくわかる。。。と感じ入って、豊かな現代に感謝するとともに、なんだか人類っていじらしくて愛おしいと思った。

人が戦うときって、歴史的には飢えを解消するためだったことが多い、と思う。何か辛いことを解消したり、何かを守るためであることが基本だよな、うん。

昔は貧しい土地の者が豊かな土地を狙うのは、あるいは豊かな人が身ぎれいにしてお腹いっぱい食べれることを妬むとか、とういうのは、自分が飢えているからで、さらには愛する人が困っているからだ。家族や一族を守るとかそういう建前のもとに正当化されがちな理由だし。

次は不安。頂点、とまではいかなくてもある程度の高みに登ったものが、そこから落ちることを恐れたり、誰かを虐げた人が報復を恐れて暴力をふるう。

それから？

愉快犯も自身の心に闇があったり、自身が不幸な人であるのが一般的だ。

人であるから人は苦しみから免れないし、悩みも不安もある。特に恐れと不安は生物が共通に持つもので、生存のためにすべての生物が共通に持つものだ。だけれども、これもまた生存のために、飢えが満たされていて、目に見える敵がいなければ、攻撃はしない。それこそ自分の命を危険にさらす。この辺は本能的にそうなっていると行動学者の書いた記事を読んだことがある。

不安は制御が難しい。特に自分で自分を追い詰めるものだから。自身の弱さを知っていればなおのこと難しいと思う。でも精神的に強ければ、不安に惑わされない判断で攻撃するか否かの判断はできる、かな。。。

個人も政府も、そうした反応における基本的なルールは同じはずだ。社会は人でできているから。

力を誇示したいだけののぼせ上った状態やおごった人や社会もあるけれど、基本的人権が世界に共通に認識されている今、それは国家というレベルでは難しいと思う。豊臣秀吉は晩年本当に気が狂っていたらしいと聞いたけれども、そして気が狂っていたならまともな判断はできないだろうけれども、ただ国のトップに立つ人が、本当にバカということはめったにない。少なくとも国内でそこまでのし上がってきている人たちだ。何かしら長じたところがあるからその場に立っているはずだ。。。

というようなことを主食の話から考えてた。

僕は20世紀がほとんど終わるころに生まれて、当時日本国民の80％を占めるといわれた中流階級で平均的に生きてきたので、やせ我慢までは知っていても、凄みのようなものは知らない。僕が知っているのは、思いやりや優しさは言葉の壁を超えるとか、自分がされて嫌なことは人にしてはいけないとか、人として尊厳をもって生きることの大切さとかだ。そして、想像力さえあれば、人は共感の心を持つことは必ずできると思うんだ。

そういうことをみんなが考えていればいいなぁ。

今日ご飯を炊きながらそう思った。