一緒に遊んでくれたのは…
プレイメイトは鹿さんです。
奈良や宮島の人慣れしている天使(鹿)さんたちではないですよ。
北の国での話です。
しばらく「ムース(Elk)の巣」とちまたで呼ばれる谷間に住んでいました。ムースは大きなヘラジカのこと。
ムースというより、現地語でエルクと呼ばれる、その音の方が好きでしたので、ここからはエルクと書きましょう。
あちこちに糞が落ちてて、すぐそこにいる存在感は濃厚。よく森の中に散歩にも行ったのですけど(ちゃんとエルクの通るといわれたルートを歩いて)、結局会えずじまいでした。エルクの雄は大きなものになると、2mとか3mもあるそうです。会ってみたい!!
一緒に住んでいた家人は全員見ているのに、なぜか私だけがムースに出会えなくて、一人で腐っていました。そんな時に一緒に遊んでくれたのが、近所の鹿さんです。
エルクに会えなかったことは今でも残念なのですが、会いたがる私に、いろいろな人がそれぞれの出会いの自慢話を聞かせてくれたり、たくさんのアドバイスをくれたのは、良い思い出。鹿と遊んだのは、その当時のハウスメイトのアドバイス中の一つで、鹿の通り道をたどっていけば、きっとエルクもいるに違いない、という言葉がきっかけでした。
鹿さんとは毎朝毎夕出会っていた私(小麦畑でむしゃむしゃ食事していました)、ある時、ふと思い立って、一目散に、顔見知りと言えるくらい日々見かけていた、いつも3匹一緒の兄弟鹿に向かって駆け出して行ってみたのでした。
鹿、逃げる。
そして案の定、いかにも鹿の通り道です、みたいな茂みの中の小道に駆け込みます。
ここで物言うモンベルシューズ。モンベルのトレッキングシューズで駆け込めないところはそうそうありません。(わたしはモンベルのトレッキングシューズの大ファンです)
私、追う。
あたりは小麦畑が主体なんですけど、それなりに草叢とか藪とか、低木の木々もあります。
私走る。
鹿はねる。
私くぐる。
鹿消える。
私その方向にともかく走る。
鹿、近所の別な茂みから飛び出してくる。
という感じで、運動音痴で走るのも苦手な私がなぜか繰り広げた鹿との駆けっこ。
私に合わせて、鹿は遊んでくれたのか、それとも私が鹿に遊ばれたのか、何なのか。
見失ったと思ったら、ぴょいと出てくるので、追いかけていた私も楽しくなり、途中で適当に歩いたりもしていたのですけど、なんだかんだ私が飽きるまで1時間くらい一緒に遊んでもらった記憶です。
顔見知りになっていたからか、子鹿だったからか…。
3匹いて、3匹とも体格が違ったので、やっぱり成長途中の兄弟、つまり子どもだったのかな、と思います。
なんとなくお互い(?)遊んでいる感がありました。少なくとも鹿は全く必死に走ってなかった…。
野生の生き物に、あんなに長時間遊んでもらったのは、今のところ後にも先にもあれくらいです。
当時はエルクに会えなかったことばかり残念がっていましたけど、エルクには会えなかったけど、鹿と遊べたのは良かったなぁ、と思うようになりました。
ハウスに帰ってその話をしたら、「鹿の通り道…」のアドバイスをくれた子にも呆れられましたけど、その子は優しい子だったので「ミケのアドバイス、試したの」といったら「その通りだわ。もっといい方法が必要ってことね」とその後も知恵を絞ってくれました。
彼女は普通に家の近所で何回も見ていたのですよねぇ、エルク。
エルクの巣に住んでて、エルクに会えなかったのは、きっと私だけでした。とほほ。
ただ、北の方の動物たちって、なんでか、時々ひどく同じ目線で気が付いたらそこにいた気がします。
いらっしゃい、遊びましょう、ようこそ、顔を見に来たよ、そっち行くなんて馬鹿ね、こっちへおいでよ、早くお帰り、また来てね、みたいな、そんなテレパシーを受け取るような、やさしい気持ちで見つめ合える。
エルクからのメッセージは…、顔洗って出直してこい?!
…ではないと信じています。きっといつか出会ってね!