風花
私は雪が好きです。
近年は良く、風花を見るような気がします。風花は、晴れの日に降る雪のこと。
青空からちらちらと舞う雪を見ていると、心に浮かぶ和歌があります。
冬ながら 空より花の散りくるは 雲のあなたは 春にやあらむ (清原深養父 古今集 冬)
清原深養父氏は清少納言の曽祖父です。京都も今は、金閣寺に雪が積もるとコロナ渦中でも300mの写真家の行列ができてしまうほどには、雪は降りません。それでも、この和歌を胸に空を見上げると、底冷えに耐えた昔も、そして近代化と温暖化で気温が上がった今も、冬の日差しはきっと美しかったに違いないと、そう感じます。そして、春を思うその幻想的な歌の風景に、厳しい寒さと、明るい日差しと、すぐに溶けてしまう雪の曖昧なはかなさが浮かんでは消える、その独特の風情。
明るい日差しに満ちた日本の冬は美しいと思います。
寒い日に、日差しの下で暖を取れる冬を持つ国は、世界にも多くはないでしょう。
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雪のことを思うとき、ユトリロの絵を見た時の驚きも思い出します。
白の時代のユトリロの絵には、実に様々な白がある。
みんな「白色」なのに全部違う。
白い絵の具にたくさんの色を混ぜて塗りつぶされた、複雑で多様なその白い色のキャンパスから、彼の狂おしい声が聴こえるような気がする、作品群です。
願ってやまぬ、見えるようで見えない、光を呑むような白い色。雪の世界の奥深く、その果てしない白い世界の向こうへ、願いをもって歩き続ける。。。
遠い国のことを思います。不思議にひどく雪深い世界を知っているような気がするのです。
白、白、白で、埋め尽くされた、何かを狂おしく求める、果てのない世界。。。
まるで古い記憶の残骸のように、瞼の裏に浮かぶ風景。
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旅をしていた頃がありました。あの風景を探して。
ちょっと盛りだくさんの、徒然に綴る雪に関する独り言です。
雪には、「願い」があると思います。無事に冬を越せるように、道中の安全、遠く離れた家族、春を望む心…。空から降ってくるたくさんの願いの結晶