老いを恐れるということ

中年といわれる年になったとき、年を取ることが初めて怖くなりました。

それより若い頃は、年を取ることはより豊かになることだと笑うことができました。それより後は、自分の体と相談しながら、潔く年月を積み重ねていこうと思えました。

でも中年の頃、だんだん白髪が増えて、思いがけないことで疲れて、心がけて運動して、良いものを食べるようになった時、一人でこのままどうなるのかしら、と思ったものです。

怖がっても年月は流れていくだけでしたが…。

今日すれ違ったあの方も、昨日お話ししたあの方も、家族がいたり、旦那様がいたり、自分よりずっと幸せそうにみえたものです。

子供の頃、母は常には幸せそうではなかったけれど、父は大変そうだったけれど、一人で年を重ねていると、自分がそうした温かい泡のような塊の一部であったこと、その中で唇をかみしめていたことも、あがいていたことも愛しく思えました。

家族を黄金の鳥かごだと思っていた子供でした。

今確かにかごの外にいて、その黄金の鳥かごで守ろうとしてくれた人たちが、愛しくて哀しく感じます。

「貴方の歌を歌え、空を見上げながら。」

ネイティブアメリカン ナバホ族の言葉です。’それでもあなたの道を行け’という本に収録されています。

暖かな家にいて、目前に困ったことがなくても、老いを恐れるこの気持ちにはいつも寂しさがありました。

戦い、飢え、日々喪失と直面していた彼らの、翼を感じる力強い言葉だと思います。

私も私の歌を歌っているのです。

…空を見上げながら。

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