子供の成長⑦
男は土を耕し 女が糸をつむいでいる 二人は時おり笑みを交わす
老人が 穏やかに 眼前に広がる その営みを見つめている
子供が一人立っている
とりどりの顔料が 足元には置かれている
そして 真っ白なキャンバスが 目の前に置かれている
真っ白できれい
紅葉のように小さな手が そっと 筆を握る
初めて野に出た子ウサギが 地面に足跡を付けるように
軽快に キャンバスに 色を重ねる
窓から日が差し込み 白い壁と 色づくキャンバスを 照らしている
鼻歌を歌う 小さな体揺らしながら
*
地球は休みなく回り 日の傾きもかわる
パレットの上で色は混ざり キャンバスの上で 時に正視に堪えぬほど 醜悪になり
やがて 部屋が少しずつ薄暗くなる
背の高い人影が 嘆きの込めて 目を凝らす
カマキリの肢のような 角ばった手が 次々に色を拾う
けれど 色は美しく混ざらない
気が付けば 壁は炎の色に染まり 影が 長く伸びている
*
つぐみが飛ぶ立つ
やがて 日は沈み 窓から 光が差さなくなるのだろう
雲母色の斑点と青白い血管の浮いた手が 動きを止める
はずみで生まれた 妙なる色を 色素の薄くなった 瞳が見つめる
太陽が沈む前に 描きあげたい
白い月光に 栄えるであろう 調和のとれた 一枚の絵
寂光の中で 祈るように 一筆 ひと筆 色を置く
ランプの灯りのような ただ一枚の絵を胸に
部屋がいつしか真っ暗にならないように 仄かな光源を 創り出そう
君が僕を訪ねてこれるように
*
僕が僕らしくあるために 僕は夢を描く
そう 僕が ただ僕らしくあるために 僕は夢を抱く
君待つ僕は そっとつぶやく
明日はきっと 絵を描き終えて 扉を開けて 出ていくよ
君を迎えに