夏を迎える
夏の始まりの日、それはparis plagesという人口の海岸がセーヌの岸辺に造られて市民に開放される日だそうです。

私は歌い踊っていないけれど、歌い踊る人たちの合間でワイワイ夜のピクニックをしました。初めてのフランス滞在で、一番印象に残った出来事です。
宿舎のみんなと連れ立って、恋人が錠前をかけて愛を誓いあうことで有名な芸術橋に、ピクニックに行きました。
その辺のスーパーからトマトとか、食パンとかチーズとか買って、後は水とビールを調達して。みんなで座って食べただけですよ。そうですねえ、5時間くらい。

若いときって、いくらでも話すことがあって、洒落たことを言わなくても、ただ仲間といるだけで果てしなく楽しい。
九州の田舎町に長く住んでいた若い頃の私は、車も行き交う街中の橋の上でピクニックなんて考えたこともなかったんです。どんどんどんどん人が集まるのを見るのは明るい夏の夕暮れの光と一緒に私の中に驚きを落としました。
宿舎メンバーは私も入れて6人、そのうち一人の友達が研究所の知り合い3,4人を連れてきて、みんなで橋の中ほどを陣取って、単にしゃべって笑っただけ。座っているうちに夜が更けて、ギターを鳴らす人、踊り出す人、橋の上は人でいっぱいで、ぎゅうぎゅう。人は増える一方で、音楽が鳴りだして、宿舎の友達の女の子も躍り出して、周囲のみんなが歓声をあげて。知らない人同士が笑いあいながら、手を手を取って夏の来訪を祝ったのでした。
喜びと、そして不思議な思いやりに満ちた夜でした。
スペインのようにはじける陽気さがあるわけではない、日本のように無鉄砲な力強さがあるわけでもない、花びらのような陽気さと親愛の心に満ちた夏の始まり。
不特定多数の知らない人がお互いを優しく見つめて、あのような親愛の情をもって接する人々と出会ったのは、人生で初めてのことでした。その人々の間には、夏の到来を喜ぶという心しかないのです。
橋の上に集った人たちにとって、夏は待ちに待った恋人の来訪に等しかったのだろうと思います。
一幅の絵画のような思い出です。
